東京地方裁判所 昭和42年(ワ)7566号 判決 1969年1月20日
原告 埼玉県信用保証協会
被告 高柳宣和
主文
被告は原告に対し金三〇万一、四四七円とこれに対する昭和三五年一一月一〇日からその支払いが済むまで日歩四銭の割合による金員を支払わなければならない。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第一当事者の申立
原告訴訟代理人は、主文第一、二項と同旨の判決並びに仮執行の宣言を求めた。
被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。
第二当事者の主張
(請求の原因)
一、原告は、訴外三和縫製株式会社(以下訴外会社という)が訴外埼玉県信用金庫(以下訴外金庫という)から営業資金として金三〇万円を、日歩利息二銭八厘、借入期間一八〇日の約定で借り入れるにあたり、昭和三五年二月三日被告と連帯して訴外会社の訴外金庫に対する債務を保証した。
二、原告と被告は右保証にあたり次の特約をなした。
(一) 原告が将来取得する求償金に対し被告は訴外会社と連帯して支払う。
(二) 右求償金に対しては、日歩七銭以内の割合による損害金を支払う。
(三) 被告は自ら保証債務を履行しても原告に対し求償権を行使しない。
三、訴外会社は訴外金庫から昭和三五年二月一三日金三〇万円を借り受けたが支払期日を徒過したので、原告は同年一一月九日金庫に元利金三〇万一、四四七円の支払をした。
そこで原告は被告に対し求償金として三〇万一、四四七円及びこれに対する日歩四銭の約定遅延損害金の支払を求める。
(請求原因に対する認否)
請求原因事実はすべて認める。
(被告の抗弁)
一、本件求償金債権は昭和三五年一一月一一日発生したが、右は商行為によつて生じた債権であるから商事債務である。
従つて右債権発生の日から五年を経過した昭和四〇年一一月一〇日に商事時効により消滅した。
よつて被告は昭和四二年一〇月九日の本件口頭弁論期日において右時効を援用した。
二、仮に主債務者たる訴外会社に対する原告の訴提起によつて、被告のためにも本件求償金債権の時効が中断したとしても、右訴は昭和三六年八月二二日に確定したから右確定した日から五年を経過した昭和四一年八月二二日に本件求償金債権は商事時効によつて消滅しており、被告は昭和四二年一〇月九日の本件口頭弁論において右時効を援用した。
(抗弁に対する認否ならびに再抗弁)
被告の抗弁一項の事実中本件求償債権が時効により消滅したとの点を争い、その余の事実は認める。
同二項の事実中、判決確定の日は昭和三六年九月五日である。本件求償債権が時効により消滅したとの点は争う。
すなわち、原告は、主たる債務者である訴外会社に対し、本件求償金の支払を求めるため、浦和地方裁判所に訴を提起し、昭和三六年八月八日勝訴の判決を得て、前記主張のとおり、同判決は同年九月五日確定した。
その結果、原告の訴外会社に対する求償債権は一〇年の消滅時効に服することとなり、その連帯保証債務である被告の本件債務も、保証債務の附従性により右判決確定の日から一〇年の消滅時効に服することとなつた。
よつて被告の時効援用の主張は理由がない。
仮に、被告主張のとおり、本件債権が、右判決確定の日から五年の消滅時効に服するものであるとしても、被告は、原告に対し住所移転の通知をせず、原告の被告に対する通知書は所在不明により返戻された。このような事情のもとにおいて、被告が消滅時効の援用をすることはそれ自体情理に反し許されない。
(再抗弁に対する主張)
訴外会社に対する原告の求償債権が、原告勝訴の判決が確定したことにより、一〇年の時効に服するに至つた事実は認める。
しかし、主たる債務者たる訴外会社に対する判決が確定したことにより、連帯保証債務である被告の本件債務の消滅時効期間が一〇年になるとの主張は争う。
消滅時効の援用が情理に反するとの主張は争う。
第三証拠<省略>
理由
請求原因事実は当事者間に争いがない。
また、原告の訴外会社に対する右求償債権ならびに、被告に対する右求償債権ならびに、被告に対する本件求償債権が、いずれも商行為によつて生じた商事債権であること、原告が訴外会社に対し右求償債権につき、浦和地方裁判所に対し、その履行を求める旨の訴を提起し、原告が勝訴してその判決が確定したことは当事者間に争いがない。
原告は右判決の確定した日は昭和三六年九月五日であると主張し、被告は同年八月二二日である旨主張するが、成立に争いのない甲第六号証の一によると、右判決確定の日は原告の主張するとおり、同年九月五日と認められる。
被告は、昭和四〇年一一月一〇日に、満五年の消滅時効期間が完成した旨主張するが、前記主たる債務者に対する訴の提起により時効の中断を生じたものというべく(民法四五七条一項-連帯保証債務につき同法条の適用のあることは後に判示する)被告の右主張は理由がない。
次に、被告は右判決確定の日から満五年の経過により消滅時効が完成した旨主張し、原告は、右判決の確定により主たる債務の消滅時効期間が一〇年に変更されたので、連帯保証債務者たる被告の債務も同様に、右判決確定の日から一〇年の時効に服すべきである旨主張するのでこの点について判断する。
連帯保証債務も、その本質においては、主たる債務の担保を目的とする保証債務であるから、保証債務に関する民法四五七条一項の適用があり(従つて民法四五八条による同法四三四条、四四〇条の適用は当然制限されるものと考えられる)、いわゆる保証債務の附従性を有するものと考えられる。
唯、民法四五七条一項の規定は、主たる債務者について生じた時効の中断がすべて保証人に対してその効力を生ずる旨を定めているにすぎないので、本件の場合のように、主たる債務者に対する確定判決により、商事時効が一〇年の普通時効に変更された場合について直接これを規定したものではない。
しかし、右規定は、保証債務(連帯保証債務についても保証債務と同様に考えられることは前記のとおりである。従つて以下特に区別しない)が主たる債務の担保を目的とする債務であるところから、当事者の合意による場合は別として、主たる債務と離れて、別個に時効消滅することは、保証債務の目的(担保的機能)に反するものであり、一般的に、主たる債務が存在する限りこれが保証債務によつて担保されているものと考える契約当事者(特に債権者)の意思にもそわないものとして、主たる債務者に対する履行の請求のみならず、すべての時効中断の効力が保証人におよぶとしたものと考えられ、これは民法四四七条、四四八条などの規定と共にいわゆる保証債務の附従性にもとづいて定められたものであり、抵当権に関する同法三九六条の規定とも共通するものと考えられる。
そこで、主たる債務の権利が判決により確立したことにより、主たる債務の商事時効が普通時効に変更された本件の場合について考えるに、このような時効期間の変更は、判決の確定に伴つて法律上当然に生ずる効果であり、主たる債務に成立の当初から内在する性質のものというべく、保証契約の際に主たる債務について当然予定された法律効果でもあるから、主たる債務についてのこのような変更は、保証債務の附従性の点からも、また契約当事者の合理的な意思の点からも、保証債務についてもその効力を生ずると解するのが相当である。
このように考えるときは、前示民法四五七条一項は、主たる債務者に対して生じた法律効果が保証人におよぶ場合を、時効の中断のみに限定する趣旨の規定と解すべきものではなく、判決の確定により時効期間に変更を生じたような場合も、時効の中断に準じて右規定により保証人に対してその効力を生ずるものと解すべきである。
以上のとおりであるから、この点に関する原告の主張は理由があり、時効により消滅した旨の被告の主張は採用しない。
そこで請求原因事実によると原告の請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。なお仮執行宣言の申立については、これを付するのを相当でないと思料するので付さないこととする。
(裁判官 川上正俊)